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福岡地方裁判所柳川支部 昭和51年(ワ)4号 判決

原告

田中ウメノ

ほか四名

被告

株式会社丸八ガラス店

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、

1  原告田中ウメノに対し金四七八万六七〇〇円及びこれに対する昭和四九年五月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

2  原告田中千代美、同田中美智代、同田中美都里、同田中洋子に対し、それぞれ、金二四八万三三五〇円及びこれに対する昭和四九年五月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を

支払え。

二  原告らのその余の請求は、いずれも、これを棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

五  被告らにおいて、原告田中ウメノに対しては金三〇〇万円、その余の原告らに対しては各金一六〇万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

一  申立

1  請求の趣旨

(一)  被告らは、各自、原告田中ウメノに対し金一五八三万〇一六〇円、原告田中千代美、同田中美智代、同田中美都里同田中洋子に対し各金六九一万五〇八〇円及び以上の各金員に対する昭和四九年五月二〇日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

(三)  被告ら敗訴の場合、仮執行免脱の宣言。

二  主張

1  請求原因

(一)  事故の発生

被告中村昌子は、昭和四九年五月一九日午後八時三二分頃、佐賀県佐賀郡諸富町大字諸富津四七番地の一諸富警察署前の道路上(国道二〇八号線)を、普通乗用自動車(福岡五五み二九五五)(以下「被告車」という)を運転し、佐賀市方面から大川市方面に向けて進行中、同所の横断歩道上を歩行横断中の訴外田中義治に被告車を衝突させ、同月二〇日午後三時五分頃、第一、第二頸椎脱臼兼骨折、頸髄損傷により死亡させた。

(二)  責任原因

(1) 本件事故は、被告昌子が前方注視義務を怠つた過失によつて発生したものである。すなわち、同被告は、同乗者と話でもしながら脇見運転をし、横断歩道上の訴外義治を、僅か二メートル余に接近するまで気付かず、同人をボンネツトにはねあげたまま一六メートル余も進行してやつと止まつたもので、同被告の一方的過失によつて発生した事故である。

当時訴外義治は飲酒していたが、横断歩道上を歩行していた同人が飲酒していたからとて非難される余地はない。

よつて、同被告は民法の一般の不法行為の規定により損害賠償義務がある。

(2) 被告株式会社丸八ガラス店(以下「被告会社」という)は、被告車保有者であり、自らの運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により損害賠償義務がある。

(三)  損害

(1) 亡田中義治に生じた損害

(ア) 逸失利益 四一六四万〇四八〇円

亡義治は本件事故当時満四五歳の健康な男子で、原告らの住所地において、田中木工所の名称で、家具等の製造販売業を営み、一ケ月三四万円(一ケ年四〇八万円)を優にこえる所得を得ており(昭和四八年一月から一二月までの年間所得は、期首期末の棚卸額を同一とみた場合で四五六万〇一七九円、一ケ月三八万〇〇一四円であり、昭和四九年一月から五月まで五ケ月間のそれは同様で一七〇万三九六四円一ケ月平均三四万〇七九二円、死亡前一七ケ月の平均月収は三六万八四七九円であつた。)、事故後二二年間は稼働可能であつたから、生活費を三割とし、中間利息をホフマン方式により控除した逸失利益の現価は、次の算式のとおり金四一六四万〇四八〇円である。

4,080,000×14.580×0.7=41,640,480

(イ)  相続

原告ウメノは妻として三分の一(一三八八万〇一六〇円)、その余の原告らは子として各六分の一(六九四万〇〇八〇円)宛、右損害賠償請求権を相続により取得した。

(2) 原告らに生じた損害

(ア)  慰藉料 各原告につき一六〇万円計八〇〇万円

原告らは本件事故により、一家の支柱たる夫や父を失つたのであり、それによる精神的苦痛は筆舌に尽くしがたく、その慰藉料は各金一六〇万円を下ることはない。

(イ)  葬儀費用 三五万円

原告ウメノは亡義治の妻として葬儀を主催し、その費用として金三五万円以上の支出をした。

(3) 損害の填補

原告らは自賠責保険から金一〇〇〇万円を受領したので、これを原告ウメノにつき三五〇万円、その余の原告らにつき各一六二万五〇〇〇円宛、損害金に充当する。

(4) 弁護士費用 三五〇万円

原告らは本訴の提起を余儀なくされ、原告ウメノにおいて原告ら訴訟代理人に対し、弁護士報酬規定に従つて支払うべき手数料・報酬金のうち金三五〇万円につきその賠償を求める。

(四) よつて、被告らに対し、原告ウメノは金一五八三万〇一六〇円、その余の原告らは各金六九一万五〇八〇円、及び、右各金員に対する事故の翌日昭和四九年五月二〇日から各完済まで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する答弁

(一) 請求原因(一)のうち、訴外義治が横断歩道上を歩行横断中であつたことは否認し、その余の事実は認める。

(二) 請求原因(二)の(1)のうち、当時訴外義治が飲酒していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(二)の(2)のうち、被告車の保有者が被告会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 請求原因(三)の(1)の(ア)は争う。同(イ)のうち、原告らの相続の点は認める。

右(ア)の逸失利益の主張に対する反論は次のとおりである。

(1) 亡義治の逸失利益の算定に当つては、所得税の確定申告額を算定の基準とすべきである。

原告らは、申告額によらず実所得によつて請求しているが、不当である。本件のように申告額と実額の差があまりにも大きい場合は公序良俗ないし信義誠実の原則に反し実額の主張はできない。原告らは、亡義治が当時一ケ月平均四三万円の所得を得ていたと主張しているが、確定申告書によれば当時一ケ月平均二二万円の所得しかない。このように両者に大きな違いがある場合、実収入を基礎として逸失利益を算定すれば、国税局に対して莫大な税金を免れて利得する反面、同じ国家機関である裁判所によつて莫大な実収入を保護してもらう結果になり極めて不当である。かかる見地から、本件の原告らのように、申告額の二倍以上の実収入を所得として主張することは信義誠実の原則から許されない。

(2) 企業主が生命を侵害されたためその企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、原則として、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきであり、企業主の死亡により廃業のやむなきに至つた場合等特段の事情のない限り、企業主生存中の従前の収益全部が企業主の右労務等によつてのみ取得されていたとみることはできない(最高裁判所昭和四三年八月二日判決)。

これを本件についてみると、次のとおりの事情が存する。

〈1〉 亡義治が経営していた田中木工所は、従来亡義治を含めて九ないし一〇人が従事していたところ、義治の死亡後も原告ウメノを含めると八ないし九人が従事しており、人的組織の面ではさほど変化はない。

〈2〉 亡義治は田中木工所の経営に当り一三〇坪の工場とその敷地を所有し、ルーター、カツター、胴切り、移動カンナ、手動カンナその他多数の機械工具、車両二台等の物的設備をその経営に供していたものであるが、その全部が相続人である原告らに引継がれ、現在の田中家具工芸の所得の裏付けとなつている。

〈3〉 旧田中木工所の月間売上げ高は、甲第一号証によれば、昭和四八年は月平均三三六万五三五〇円、昭和四九年は五月までの平均が三五五万六五二八円であるのに対し、現在は月平均七~八〇万円減少しているとのことであるが、それでも月平均二七〇ないし二八〇万円の売上げがあることになる。

甲第一号証によれば、現在の所得率は亡義治の生前に比べて一%減少した一一%ということであるから、これを右売上げに乗ずると約二九万七〇〇〇円ないし三〇万八〇〇〇円の利益があることになる。

〈4〉 田中木工所の所得を所得税の確定申告書についてみると、昭和四九年分の田中ウメノの申告額が一二〇万円、田中義治相続人の申告額が一一〇万円であるから、これを合計した二三〇万円が昭和四九年分の田中木工所の所得であつたとみることができる。これに対し、昭和五〇年分の田中ウメノの所得税の修正申告書によれば申告額は二四二万七〇二九円ということであるから、田中木工所としてみた場合、義治の死亡の前後では所得はかえつて増していることがわかる。

〈5〉 以上の諸事情を総合すると、亡義治の個人的手腕及び労力を大幅に考慮するとしても、その寄与率は最大限五〇%をこえないものであり、亡義治の月平均の収入が二二万円であつた場合、その寄与分は月額平均一一万円に過ぎないものである。

(3) 仮に亡義治の逸失利益を所得の確定申告額でなく、実所得によつて算定するとした場合も、労務価値説の方法により算定すべきである。この場合も、亡義治の寄与率は最大限五〇%であるから、仮に同人の死亡前の一七ケ月の平均月収が原告ら主張のとおり月平均三六万八四七九円であつたとしても、その寄与分は月平均一八万四二四〇円にすぎないことになる。

(四) 請求原因(三)の(2)の(ア)は否認し、同(イ)は不知。

(五) 請求原因(三)の(3)は認める。同(三)の(4)は争う。

3  被告らの主張

〈a〉本件事故については、被告昌子には全く過失はなく、亡義治の一方的過失によつて右事故は発生したものであり、〈b〉本件事故当時被告車には構造上の欠陥も機能障害もなかつた。

(一) 被告昌子には全く過失はない。

(1) 本件事故発生地付近の道路状況等について

本件事故現場である佐賀郡諸富町大字諸富津二三番地の六の三菱石油店先国道二〇八号線道路は、東西に直線に通ずる平坦にして全面コンクリート舗装、幅員六・七〇メートル、その中央に中心線の白線の表示があり、右国道の北側に幅約一・五〇メートルの国道より一段高いアスフアルト舗装の歩道があり、この歩道に平坦にしてアスフアルト舗装幅員約四メートルの道路が直角に交差し、T字路を形成して北方に通じて交差点を成している。

本件事故現場の北側には三菱石油店の給油所があり、南側には諸富警察署があり、また右交差点には南北に横断歩道の道路標識がなされ、この横断歩道の両端付近に交通信号機の設備があり(同信号機は午後八時以降は作動せず滅灯し、本件事故発生時も滅灯していた)、本件事故現場付近国道の車両の最高速度は四〇キロメートル毎時の規制がなされている。

(2) 事故現場付近の照明等について

本件事故当時は、午後五時頃まで降つていた雨があがり、曇天の日が暮れてまもない五月一九日午後八時三〇分頃であり、右交差点手前北側端角には水銀灯の街路照明設備があり、そのため事故発生時には、横断歩道付近を含めた交差点内は比較的明るく従つて見通しも比較的良いのであるが、その反面横断歩道付近から東方に通ずる国道付近まで右照明は及ばず、従つて見通し困難でしかも三菱石油店前給油所(広場)も照明設備がなく、真暗で見通し困難である。

(3) 衝突地点について

訴外義治と被告車との衝突地点は、被告車の進行方向に向い左側道路のほぼ中央の横断歩道東方側端から東方約四メートルの地点である。

(4) 故義治の行動について

本件事故当時西行車道には三台の走行車両があつたこと及び右走行車両がいずれも本件事故現場付近で一旦停車・徐行しなかつたこと、一方東行車道には被告車一台しかなかつたこと、義治は横断歩道外を通行し、しかも南側のみを向き東行車両に対して全く注意を払つていない姿勢であつたこと、さらに当時飲酒酩酊していたこと等の諸事情に照すと、同人は東行車両はないものと軽信し、次々と走行する西行車両のみに注意し、急いで東行車道を横断して道路中央線付近に達することのみに気を奪われ、東行車両に対する十分な安全確認をする余裕もなく、直ちに東行車道を横断しようとして突如として被告車の前面にあらわれたと推認される。

(5) 被告昌子は、横断歩道手前約三四メートルの地点において信号機の点滅を確認し、同時に東行道路及び信号機下付近の道路をも確認し、前方を注視しながら本件事故現場付近まで進行したのであるが、その間通行人、人影等発見できず、衝突地点手前約二メートルに接近した時、突如として被害者を発見した。

同被告が助手席の待鳥みのりと話したのは、横断歩道手前から約三四メートルもの距離があり、また待鳥の方を向かず前方を向いたまま話しかけたのであつて、前方注意義務違反とは全く因果関係がない。

(6) 前記(1)、(2)で述べたとおり、事故発生時は雨あがりの月のない曇天の、日暮れてまもない暗夜で、現場付近及び被害者がそれまでいたと思われる現場北側の三菱石油店前の広場は、信号機が当時点滅せず、しかも街路照明もなく、付近の建物からもれる燈火も及ばない見通し困難な状態であつたし、暗夜の対向車と間断なく離合を繰り返し、その前照灯等による道路前方及び道路左方の視界が妨げられるという状況においては、道路左端歩道上から横断して来る歩行者は被告車前照灯を横切る黒い影として瞬間的に認めうることもあるが、一般的にいつて道路左方においてはその確認は不可能もしくは極めて困難であり、歩行者が進路前方に現われてはじめて発見できるものである。

しかも本件においては、被害者の服装も光線の反射しにくい黒に近い紺色の背広上下であり、被害者は、暗くて見通し困難な三菱石油店広場から突如東行道路上に進んで来たと推認されるから、被告昌子が前方注視義務を尽くさなかつたことにより被害者の発見が遅れたということはできない。

以上のとおりであつて、本件事故が被告昌子の前方注視義務違反を原因として発生したものということはできず、同被告は無過失である。

(二) 過失相殺

仮に被告昌子に過失があるとしても、亡義治には次のような重大な過失があるから、少なくとも六〇%以上の割合において過失相殺されるべきである。

(1) 亡義治は、事故地点から僅か四メートルの地点に横断歩道があるのにこれを利用しようとはせず、十分に安全を確認することなく、直ちに東行車道を横断しようとして突如として被告車の前面二メートルの地点に飛び出した過失がある。

雨上り直後の日が暮れてまもない時間に照明が及ばない交通量の多い幹線道路たる国道上を横断しようとした過失は重大である。

(2) 過失相殺率について

およそ信号機の設置されていない横断歩道付近における横断については四〇%の過失相殺を基準とし、さらに夜間であるから五%、幹線道路であるから一〇%の加算をすべきである。また、本件被害者は突然道路上に飛び出した過失があることを考慮すると、さらに一〇%を加算すべきであり、以上総合すると本件被害者の過失割合は六〇%以上とみるのが妥当である。

4  被告らの主張に対する答弁

被告らの自賠法三条但書の主張事実も、亡義治に過失があつたとの主張事実も否認する。

三  証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)の事実は、訴外田中義治が横断歩道上を歩行横断中であつたとの点を除いて、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一、第八、第一〇、第一一、第一二号証を総合すると、本件事故は右義治が横断歩道の前方(衝突前の被告車の方から見て横断歩道を越えた向う側に)約三メートルの所を歩行横断中に発生(衝突)したものであることが認められる。歩行者が横断歩道を僅かにはずれて、例えば横断歩道から一、二メートル以内の場所を横断した場合には横断歩道上の横断と同視してよい(他の事由が加わらなければ過失相殺率は零)とされるところ、本件においては横断歩道から約三メートル離れた地点であるから、やはり過失相殺率は低率にしなければならないであろう。また右義治が当時飲酒していたことは当事者間に争いがないが、同人が酩酊していたとの的確な証拠はなく、同人が千鳥足その他異常な歩行をしていたとか、とび出して来たとかの事実を認めるべき証拠もない。亡義治が横断歩道から約三メートル離れた地点を歩いていたこと、本件事故の発生が夜間であること及び事故現場が国道二〇八号線という幹線道路であることを加え考慮しても、本件においては原告側に二〇%程度の過失相殺をするのが相当である。

二  前掲乙第一、第八、第一〇、第一二号証によると、請求原因(二)の(1)の事実(但し、被告昌子が同乗者と話をしながら脇見運転をしたとの点を除く)が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。そうすると被告昌子は、民法の一般の不法行為の規定により、原告らが本件事故によつて受けた損害を賠償すべき責任がある。

被告会社が被告車の保有者であることは当事者間に争いがなく、被告車の運行によつて訴外義治の生命が害されたのであるから、被告会社はこれによつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  亡義治に生じた損害

(一)  逸失利益

亡義治が本件事故当時満四五歳の健康な男子で、原告らの住所地において、田中木工所の名称で、家具等の製造販売業を営んでいたことは、成立に争いのない乙第一四号証、原告ウメノ本人の供述(一、二回)によつて認められる。

証人井上博の証言によつて成立の認められる甲第一号証及び右証言によれば、田中木工所の昭和四八年一月から一二月までの年間所得は四八八万五〇六七円であり、昭和四九年一月から五月までの所得は二一三万九四〇二円であることが認められ、義治の死亡前一七ケ月間の田中木工所の平均月収は四一万三二〇四円となる。

被告らは、亡義治の逸失利益の算定の基礎としての田中木工所の所得については、租税申告額によるべきであつて実所得を主張することは公序良俗ないし信義誠実の原則に反し許されない旨主張する。なるほど成立に争いのない甲第二号証の六によると亡義治らが税務署に対し右に認定した実所得よりかなり少なく所得申告していることが認められ、税法上かかる申告の許されないことはいうまでもないが、右実所得自体は何ら違法、不当な手段によつて得られたものではなく、正当な営業によつて取得されたものなのであるから、本件のごとき損害賠償請求事件において右実所得による損害を主張・請求することをもつて、公序良俗違反・信義則違反として許されないものということはできない。本件における損害額の算定については、前記実所得を基礎とするのが相当である。

企業主が生命を害されたため、その企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、原則として、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきであることは被告らの主張するとおりである。そうして、義治が経営していた田中木工所の営業収益額は、昭和四八年一月から昭和四九年五月までの一七ケ月間の平均で月額四一万三二〇四円であることは前認定のとおりであり、原告ウメノ本人尋問(一、二回)の結果によれば、義治死亡後原告ウメノらが右営業を承継し現在では月平均二四万円を下らない収益をあげていることが認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。しかして、右収益額月平均二四万円は義治死亡直後以降同様であつたものと認める。そうすると、特段の事情のない本件においては、田中義治が生命を侵害されて企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる昭和四九年五月二〇日以降の一ケ月当りの財産上の損害額は右四一万三二〇四円から二四万円を差引いた額一七万三二〇四円であると推定するのが相当であり(最高裁判所昭和四三年八月二日判決、集二二巻八号一五二五頁殊に一五二七頁参照)、これに一二を乗じた二〇七万八四四八円が一年当りの損害額ということになる。

亡義治は前記のとおり事故当時四五歳の健康体だつたので、就労可能年数は二二年とすべく、生活費の控除率は収入の三割とするのを相当とし、複式ホフマン式方法により年五分の中間利息を控除して本件事故時における現価を計算すれば、期数二二の右ホフマン式係数は一四・五八〇〇であるから、

2,078,448×(1-0.3)×14.5800=21,212,631

の計算のとおり、二一二一万二六三一円である。

そうして、前記過失相殺率で過失相殺すれば、一六九七万〇一〇〇円となる(21,212,631×0.8=16,970,104 一の位切捨)

(二) 原告らの相続

原告ウメノが亡義治の妻であつてその相続分が三分の一、その余の原告らが亡義治の子であつてその相続分が各六分の一であることは、当事者間に争いがない。そうすると、原告ウメノは五六五万六七〇〇円、その余の原告らは各々二八二万八三五〇円宛、右逸失利益の損害賠償債権を相続したのである。算式

16,970,100×1/3=5,656,700

16,970,100×1/6=2,828,350

2  原告らに生じた損害

(一)  慰藉料

亡義治は一家の支柱であつたところ、原告ウメノは夫を、その余の原告らは父を、本件事故によつて失つたもので、その精神的苦痛の甚大であることは容易に察せられる。本件事故による損害については、原告ら側に二〇%の過失相殺をするのを相当とすること前記のとおりであり、この点を斟酌し、本件にあらわれた一切の事情を考慮して、原告らの受くべき慰藉料の額は各々金一二八万円(五名合計六四〇万円)をもつて相当と認める。

(二)  葬儀費用

原告ウメノ本人尋問(一回)の結果によれば、原告ウメノが亡義治の葬儀を主催し、その費用として三五万円を下らない金員を支出したことが認められ、反対の証拠はない。

(三)  損害の填補

原告らが自賠責保険から金一〇〇〇万円を受領し、右は原告ウメノの損害に三五〇万円、その余の原告らの損害に各々一六二万五〇〇〇円宛充当したことは当事者間に争いがない。

そうすると、原告らの損害と右填補の結果は次のとおりである。

原告ウメノの分

5,656,700(逸失利益相続)+1,280,000(慰藉料)+350,000(葬儀費用)-3,500,000=3,786,700(円)

その余の原告らの分(各々)

2,828,350(逸失利益相続)+1,280,000(慰藉料)-1,625,000=2,483,350(円)

(四) 原告らが本訴の提起を余儀なくされ、原告ウメノが原告ら訴訟代理人に本件の訴訟の提起・追行を委任したことは原告ウメノ本人尋問(一回)の結果認められ、本件の認容額、本件事案の内容等を考慮し、原告ウメノの要する弁護士費用のうち被告らに負担させるのは金一〇〇万円をもつて相当と認める。

四  以上の次第であつて、被告らは各自、原告ウメノに対し前記三七八万六七〇〇円と右弁護士費用一〇〇万円との計四七八万六七〇〇円、その余の各原告に対し前記二四八万三三五〇円宛並びに右各金員に対する本件事故の日の後(翌日)である昭和四九年五月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払う義務があるものというべく、原告らの請求は右の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、八九条を、仮執行の宣言及び同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保園忍)

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